今年の広島瀬戸内の神宮への夢は、あと一歩で届かぬものとなりました。
しかし、この準優勝のお陰で新たな課題と大きな自信も得ることができ、今後に向けた新たな目標を掲げることが出来ました。
正直、悔しい気持ちは今も残りますが、選手達はもちろん我々関係者も、この冒頭の3行のうち、どちらの気持ちを胸に刻むか…だと思っています。
「臥薪嘗胆」という言葉は、伊藤監督の座右の銘でもあり、広島瀬戸内の戦うスタイルでもあります。
しかしこの言葉は「根に持て」という意味ではありません。
勝ちも負けも全ての「結果」を真摯に受け止め、そして全てのことに「感謝」し、そしてなお一層「精進」しなさい。
という「柔」の意味もあると思います。
先ずは君たちは、その「柔」の意味を習得して欲しいと思います。
6月22日の試合直後、監督コーチは一点を見つめたまま動かず、選手達の9割は号泣する中、あるチームの関係者の方がこう仰いました。
「瀬戸内さんはアツいねぇ…選手も指導者もよう泣いてじゃねぇ…まぁ、早めに気持ちを切り替えて!北海道頑張ってよ!」と。
きっと心配して下さったんだと思います。そして励まして下さったんだと思います。
けど僕はこう思うんです。
勝ったり、負けたりして流す涙にアツいも寒いもないんです。
そしてその選手達と共に涙を流し続けることに、若いも年寄りもないと思うんです。
話は変わりますが、僕は日本に生まれてきて、そして日本という国で生きてきて本当に良かったと思っています。
それは日本に「四季」というものがあるからです。
四季があるから、僕たちは様々な感動を味わうことができるんです。
冬の寒さや厳しさも… 時が経てば、やがて柔らかな日差しと共に桜の花びらが一枚づつ開花していきます。
その花びらを見るたび「春が来たんだなぁ…」と幸せな気持ちになれます。
そんな幸せな気持ちを味わえるから… いつかは春が訪れることを知っているから…
僕たちはあの、厳しい冬を越す「勇気」と「希望」を持つことが出来るんです。
そんな四季を生まれたときから経験し、感じ、そして過ごしてきた僕たちには、もっと大切な4つがあります。
それが「喜怒哀楽」という感情なんです。
僕たちは人間なんですから…
喜ぶときは思いっ切り喜べばいい。怒るときは真剣に怒ればいい。哀しむときはトコトン哀しめばいい。
楽しむときは…心の底から楽しめばいい。
一番いけないことは、その気持ちを自ら抑え込んでしまうことだと思います。
人間が感情を封印してしまえば表情がなくなります。
表情がなくなれば…それは人が人でなくなってしまう瞬間だと…僕はそう思っています。
春が来るから厳しい冬が耐えれるように…
いつかは笑える日が来るから…来ると信じているから…
人間は哀しいときに心の底から泣くことが出来るんです。
そんな当たり前の姿に、若いも年寄りも…アツいも寒いもないんだと…僕はそう思います。
僕は試合終了後、ある選手にこう声を掛けました。
一年前のその選手は、揺すっても回してもまっ…たく声の出ない、感情を表に出すことが苦手な選手でした。
「お前が試合で声を出すところ…初めて聞いたど。
お前…この一年でよう成長したのう… 何でお前がここまで成長できたか分かるか?」と。
その選手は不思議そうに首を傾げていたので、こう言ってあげました。
「オマエがたくさん笑うようになったけんよ」と。
すると、その子は帽子のつばを摘まみ、照れくさそうに笑ってくれました。
「瀬戸内に入って…良かったの」そう言いながら肩を叩いてやると、力強い声で「はい!」と答えてくれました。
選手達と共に四季を過ごし… 選手達と共に泣き笑い… そして選手達と共に成長する。
これが広島瀬戸内リトルシニアというチームの「色」だと思います。
長くなったので最後になりますが、表彰式終了後、スコアボードをバックに記念撮影を撮ってくれという指示がありました。
選手達にその旨を伝えると、明らかにテンションが低いのを感じました。
目の前には優勝を決めた高川学園さんが、満面の笑顔で優勝記念撮影を撮っていました。
だから僕は思わずこう言いました。
「おい2年生!! 今日という日をよう覚えちょけ!!
3年の神宮は今日で終わったが、お前らの神宮は今日が始まりなんじゃ!! 今この瞬間がスタートなんじゃ!!
そのためにも全員前に出て、あの記念撮影の姿をよう見ちょけ!! そして絶対に目をそらすな!!
あの姿と、あの高川の選手が喜びようる顔、その一つ一つをその目によう焼き付けとけ!!
そしてこの光景と悔しさを、来年のこの日まで片時も忘れなよ!!
ええか!!絶対に忘れるな!! この一年でもっともっと大きゅうなって… もっかいこの場所に帰ってくるど!!」
その瞬間、2年生の11名が泣き崩れました。
その姿は、まるで何かの呪縛が解けたような… ようやく何かから解き放たれたような…
悔しさと…安堵が入り交じったような…そんな切ない姿でした。
今まで気丈に結んでいた唇からは… ようやく中2の少年らしい泣き声がもれ、溢れ落ちる涙を懸命に拭いながらも、それでも誰一人として高川学園の記念撮影から、目をそらす子はいませんでした。
その後ろでは…同じように目をそらさず、肩を震わしながら号泣し続ける3年生達がいました。
僕はその光景を眺めながら色んな想いがこみ上げてきました…
「ほうよのぅ… 考えてみりゃ…頑張ってきたのは3年生だけじゃないんよのぅ…
コイツらがおってくれたけん… コイツらが何度も助けてくれたけん…
わしら、ここまで夢を見ることが出来たんじゃもんのぅ…
コイツらはコイツらなりに… 今まで色んなモン背負いながら、ここまで付いて来てくれたんよのぅ…」
そんな想いが頭の中を駆け巡り、僕の目頭も熱くなりました。
あのグランド上で、3年生も2年生も…誰一人として会話する子はいませんでした。
でも3年生の背中からは「今まで助けてくれてありがとう。神宮に連れてってやれんでごめん」という声が…
そして2年生からは「先輩たちと一緒に神宮に行くことができず…本当にすいません」というお互いの声が…
彼らの胸にはちゃんと届いていたのかも知れません。
えかったのぅ…お前ら…
最後の最後でようやく「その意味」を教えてもろうたじゃないか…
ええか?お前ら…
6月22日にお前ら一人一人が流した涙の数… 何度も何度も唇を噛みしめた血の味…
その一つ一つが本当の…「臥薪嘗胆」という意味なんよ。
この2年半、監督コーチが口が酸っぱくなるほど語り続けた、この4つの漢字。
この言葉が持つ本当の意味を、君たちは最後の最後で、ようやく身を持って経験することが出来た。
これは君たちにとって、本当に掛け替えのない財産だと思う。
僕はこの決勝戦を観戦できて… そしてこんなに素晴らしい経験をさせて貰って…
本当に本当に「感謝」という言葉しか出てこない。
本当に本当にありがとう。
3年生達も残すところ、あと3大会。
この青空の下で… この仲間達と共に、瀬戸内の選手として野球が出来る僅かな日々を…
心の底から噛みしめて欲しい。
広島瀬戸内の選手諸君… 日本選手権予選準優勝、本当におめでとう!!
君たちが誇る「固のチカラ」の素晴らしさに、僕たち大人は何度も何度も勇気をもらいました。
あと3大会、我々保護者も最後の最後まで、君たちから勇気と感動をもらいに球場に足を運びます。
君たちの最高のフィナーレまで… あと3つ!!