武蔵…
お前が何十球…何百球と受けている「エースの球」に、お前は何も感じなかったのか?
ミットの奥に痺れる球の異変… 変化球の角度…キレ… 球の勢い…
そして… 一球一球伝わってくる「一樹の不安」と「一樹の弱気」
お前は、その異変に気付きもせず、ただマウンドのエースにボールを返し続けていたのか…?
お前が被る、青いプラスティック格子の向こう側に…
負の匂いと… 浮き足と… 迫り来る「危険」という名の空気を… お前は感じ、そして読めなかったか…?
お前は… 本当に「一樹の女房」なのか…?
女房なら!! 旦那が倒れそうな時、支えてあげなさい。
女房なら!! 旦那の異変や、旦那の全てを誰よりも理解してあげなさい。
そして… お前がこの家(チーム)の扇の要なら…
仲間の異変、仲間の不安、仲間の弱気、仲間の奢り、仲間の慢心にいち早く気付き…
お前がその青い格子を取って「顔」を見せ、仲間たちの元に駆け寄って「間」を取りに行ってあげなさい…
お前がこの家族(チームメイト)の女房役なら!!
彼らを全力で守りなさい。
陰になり…日向になって、エースを、仲間を、全力で守ってあげなさい。
それがこの野球で唯一、仲間たちの顔を見渡せる場所に座ることを許された…
この家(チーム)の司令塔なんだから。
お前が最終回にやってきたことは…「ただのキャッチボール」であって…「リード」じゃない。
座って投げて、座って投げて… 旦那ひとりを「孤独」にしていただけ。
お前が誰よりも旦那のことを解ってるんだったら…
お前しか、旦那のことを理解してあげることが出来ないんだったら…
お前が旦那ひとりを苦しめちゃダメだ。
ニッコリ笑って側に行き…
「大丈夫!! あと2つ!! 自信を持って腕を振って、俺のミット目掛けて投げてこい!!」
そう言って、胸の一つや二つ、軽くこついてやるだけで…アイツはきっと救われていたはずだ。