激闘の春季リーグ第2節を終え、混戦の東部Aリーグの予選を突破するには、最終節で福山チームが呉昭和に勝ち、なお且つ、我々が最終節の福山東戦で「4回10点差のコールドの勝点5」を取るしか道はなくなった。
勝負の行方は「自力」と「人任せ」
この時点で、ほぼ「目」はない。
人任せ(運任せ)に「道」を委ねるようでは、真の勝ちなど舞い込んでこない。
案の定、我々が「自力」を見せる前に、その僅かな細い糸は、プツリと音を立てて切れ、29期生の2大会連続の予選敗退が決まった。
この瞬間、我々の試合は、戦う前から、いわゆる「消化試合」が確定してしまったことになる。
当然、テンションはダダ下がり。
目標もない。
夢もない。
当然… 選手の目にも覇気が…
消えていなかったのである。
「数週間前のオマエら」なら、この瞬間、笑顔がなくなり、声もなく…お通夜のような状態でベンチ入りしていた。
しかし、この日の29期生の「闘志の炎」は、全く消えてはいなかった。
いや… むしろ、逆に闘志の炎が燃えさかっていた。
目標のない、ただの消化試合で、コイツらはウチに入団して、一番生き生き野球をしていた。
野球をすることが。
仲間と共にグランドに出ることが。
こんなに愉しく、そして…勝ちたくて勝ちたくてたまらない。
この日、29期生の子どもたちは、シャークスに入団して初めて「初心」に帰ることができた。
多くの仲間たちと、放課後の校庭に集まり…
スニーカーのつま先で地面に4本の四角い線を引き…
柔らかいゴムボール1つだけ握りしめ…
多くの子どもたちと、日が暮れるまで… 腹が減るまで…
夢中で、たった1つのボールを追いかけ…
腹の底から仲間と笑い続けた「あの頃」の懐かしい記憶…
「あの頃」から、数年のときが経ち…
キミたちは「柔らかいゴムボール」から「硬い革のボール」を握り締めるようになった…
迷いながら… もがきながら… 負け続け…
悔しくて悔しくて…涙を流した、たったひとつの「きっかけ」が…
キミたちに、野球を始めた頃の「楽しさ(きっかけ)」を思い出させてくれた。
キミたちが初めて掴んだ柔らかいゴムボール…
色鮮やかで軽い、プラスティックで出来たカラーバット…
それを握りしめたとき…
それを力強く打ったとき…
どこまでもどこまでも遠く…青い空に吸い込まれてゆく、白いゴムボールを眺めながら…
キミたちは初めて「野球の楽しさ」を知った…
忘れかけていた、あの頃の笑顔…
忘れかけていた、あの頃の野球の楽しさ…
キミたちは、ようやく「あの頃の笑顔」を思い出すことができた…
キミたちの原点は、ここなんだ。
夢中でボールを追いかけ、汗を拭うのも忘れ…
ただボールを打つこと、ただボールを投げること、ただグランドを走り続けることが、愉しくて愉しくて仕方のなかった「放課後手打ち野球」
それが「キミたちの原点」であり…
キミたちの「初心」なのだから…
本選に進むことはできなかったけど。
2大会連続で、予選で敗れてしまったけど…
キミたちは、本選に進むことより「大切なモノ」を得ることができた。
勝利を得ることより、もっともっと「大事なこと」を思い出すことができた。
それがこの「原点に帰る」という、忘れものを見つけられたこと。
奏斗… 野球って…やっぱ楽しいよな!
野球を選んで…良かったよな。
主将として、たくさん悩み、泣き、たくさんたくさん自信を失ってきたけど…
それでも、お前はこのチームで。
このチームのキャプテンで…良かったと思う。
野球と出逢えて… 野球を選んで… やっぱ幸せだったと思うよ。
「変わるヤツは0.1秒で変わる」
「変わらない(変われない)ヤツは、10年経っても、20年経っても変われない」
大丈夫。
オマエら29期生は変わった。
「あの日」から… 0.1秒で変わった。
消化試合でも。
目標がなくなっても。
戦うことの「意味」を求めるのではなく…
戦うことの「意義」を求めるチームになった。
大丈夫。
オマエらなら「大丈夫」
さぁ! もうすぐ「最高のナツ」がやってくる。
最高のナツが、お前たちを待っている。
行こう!神宮へ!
行こう!この仲間たち全員で!
キミたちの「放課後野球」が今…
ここから始まる!