久しぶりのコラム。
実に2年ぶりに筆をとる。
2018年度・第24期生の春が終わった。
この試合の先発を任されたのは、一年生右腕の河口賢伸。
試合前は、武者震いも含めた多少の緊張はあったものの、とても一年生とは思えぬ落ち着いたマウンドさばきだった。
初回は、球審の独特のストライクゾーンの判定に、焦りの色を隠せなかったが、そこも持ち前の度胸とセンスで何とか修正し、強打の呉昭和打線相手にスコアボードに5つの0を刻んだ。
しかし、6回表。
マラソンで言えば、遠くにスタジアムの姿と歓声が聞こえてくる「一番苦しい場面」である。
そこに突如、広島瀬戸内に悪夢が訪れた。
近年の野球で「一番試合が動く」のは、7回、8回である。
シニアで例えれば、まさに5回、6回にあたる。
よって、プロ野球では先発投手と同じくらい「セットアッパー」のレベルで勝敗が決まるといっても過言ではない。
それを象徴するのが一昨年のカープ。
一昨年のカープには「ヘーゲンズ・ジャクソン・今村」という鉄壁の3枚がいた。
しかし、昨年のカープには「今村」という一枚の壁しか「計算」出来なかった。
よく「逆転のカープ」と称されるが、昨年のカープは「逆転されるカープ」という裏の顔も持ち合わせていた。
いつものように、話はそれたが、人はそれくらい「ゴールが見えてから」が弱い。
よく「アドレナリン」という言葉を耳にする方も多い思うが、スポ根の根本って、要はコレのこと。
コイツが高まって、色んな神経や感覚を「麻痺」させてる間は、いわゆる「スーパーサイヤ人」や「ウルトラマン」になれる。
それくらい、アスリートにとっては、この「アドレナリン」は、決してバカに出来ない存在なのである。
このアドレナリンについては、詳しく語れば語るほど長くなるので割愛するが、
要は人がスーパーサイヤ人でいられるのは「限られた時間しかない」ということ。
何が言いたいのか分からない?
じゃあ結論から言おう。
言いたいことはたった二つ。
一つ目は、
「ただのサイヤ人に戻っても、十分戦えるだけの鍛錬を積みなさい」
ということ。
「本当のキミ」は、スーパーサイヤ人なんかじゃなく「ただのサイヤ人」なのだ。ということ。
そして二つ目は、
いつでも「スーパーサイヤ人」に変身できるよう、自分をコントロールしなさい。
ということ。
「ここ!!」という場面で変身できない。
「ここ!!」という場面以外で変身しても全然意味がない。
ということ。
コレさえ理解できていれば、春の敗戦の理由が見えてくるはずだ。
ようやく注目のあのシーンまで巻き戻そう。
あの試合の6回裏。
マウンド上の賢伸にとって「最もやっかいなモノ」がおそってくる時期である。
その「最もやっかいなモノ」とは。
そう、先ほども触れた
「マラソンで言えば、遠くにスタジアムの姿と大歓声が聞こえてくる」
が、まさにそれである。
この瞬間までの賢伸は、アドレナリン全開の、まさに「スーパーサイヤ人」の姿のまま、そのマウンドに立ち続けていた。
「勝ち」とか「負け」とか、関係ない。
見えているのは「陸斗のミット」だけ。
目的は「目の前の敵」を倒すことだけ。
たった「それだけのこと」だったはずである。
そんな賢伸は強い。だって完全無敵のスーパーサイヤ人だったのだから。
しかし、6回表。
マウンドに上がった賢伸は、ベンチの雰囲気…スタンドの雰囲気に、なにやら美味しそうな、甘~い匂いがしてくるのを感じた。
その甘~い…匂いは、マウンド上の右斜め前から、強烈に放たれているのを感じた。
「これは見てはいけないモノかも知れない」
その甘美な匂いは直感的にそう思えるほど、危険なくらい甘い匂いだった。
しかし、腹ぺこの賢伸は、甘~い匂いのする方向へと…ゆっくり目を映してしまった。
そこに見えたモノは「5つの0」と「2つの2」が並ぶスコアボードだった。
今まで意識してこなかった感情が、賢伸の胸に沸々とこみ上げてくる。
「もしかしてオレ… 完封勝ちできるのか…?」
その瞬間、賢伸の目に移るスコアボードが、とても美味しそうなチョコレートケーキに変貌を遂げた。
と、同時に…
金色だった賢伸の髪が、黒髪にもどり…賢伸はただのサイヤ人に戻ってしまった。
こうなってしまうと賢伸のボールは魂を失った「ただの棒球」に変貌を遂げてしまう。
案の定、先頭打者に火の出るようなレフト前ヒットを食らう。
おそらく、この試合初めての「芯を食らう」当たりだった。
気持ちを整えた賢伸が、次の打者をセンターフライに打ち取る…が!
これをセンターが目測を誤り、センターオーバーのタイムリースリーベースとなる。
この試合、耐えて忍んだスコアボードに、初めて1という数字が刻まれる。
そこからの賢伸は、今までの賢伸とは「まるで別人」だった。
アドレナリンが切れ、普通のサイヤ人に戻った賢伸に襲いかかったモノは、今までの極度の緊張から「堰(せき)」を切った「疲労」と「握力低下」だった。
加えて、あのチョコレートケーキがどうしても目に飛び込んでくる。
「まだ1点じゃないか!ここを抑えてその次の回も抑えれば、あのケーキが食える!はよ食いたい!はよ楽になりたい!」
そんな、焦りと呪縛から解放されたい一心の賢伸に、自慢の闘争心と制球力が定まるはずもない。
受ける陸斗もやはりここは一年生。
「どっ!どしたんや急にコイツ?!」と、急変した賢伸にお付き合いするようにパニクっている。
そして周りも固まり、マウンド上へ声を掛ける選手は誰一人現れず、賢伸はただ一人「孤立」してしまう。
恐らくこの時の賢伸は、ストラックアウトの⑤番の的しか残されていないような状態で、マウンドに上がっていたのかも知れない。
そして遂に…
賢伸は2番バッターに押し出し四球を与え、同点となった場面で二番手の前門戸にマウンドを渡した。
賢伸…
一年生ながら、春季大会という全国予選の中、猛打の呉昭和打線相手に5回3安打0失点という内容は、本当に素晴らしかった。
しかし、この偉業はお前が「スーパーサイヤ人」に変身していたからこそ、成し遂げることが出来た数字なんだ。
本当に凄いピッチャー、本当に凄い選手は、アドレナリンが切れた「ただのサイヤ人」になっても、十分戦える戦闘力と精神力を兼ね備えてなければダメなんだ。
スーパーサイヤ人は、所詮「特殊能力」というだけであって、本当のお前なんかじゃない!
河口賢伸という「本当のお前」は、アドレナリンが切れて、スーパーサイヤ人という特殊能力が切れて、丸裸のお前になっても戦うことができる「強い自力」があって初めて輝くんや!
その「自力」で超えた坂や壁の高さと、くぐり抜けてきた修羅場の数の差で!
「お前」という本当の価値が上がってくるんや。
一流になるなら!「ホンマのお前」で勝負せなアカン時が必ずくる!
もっともっと強いオトコになりたいなら!そこで絶対逃げるな!
「丸裸になったお前」でくぐり抜けてきた修羅場の数で勝負せい!
そのことだけは絶対に忘れるな!
攻撃陣も、逆転された直後の6回。一死二、三塁の絶好の好機でも。
最終回の二死一、二塁という、サヨナラの好機も作るが、いずれも得点にはならんかった。
これは俗にいう「流れを向こうにやる」という、野球で最も恐いジャングルへと足を踏み入れる結末となった。
敢えて固有名詞を出すが「6回の一本」が出せんかったのは、陸。
「最終回の一本」が出せんかったのは、キャプテンの海琉。
である。
何度も言うが、野球は結局、勝負事。
勝負事なんか、絶対もないし、どうなるか分からんから面白い。
さっきは賢伸に、アドレナリンが切れてからのホンマのお前で勝負できるような人間になれ!と言うたことと真逆になるが、人間、きれい事抜きで「ここ!」というシーンでは、必ず「プラスα」のチカラが味方してくれなければ「越えられない坂」というモノがある。
それがいわゆる「神ってる」というヤツであり、これがいわゆる「スーパーサイヤ人」に変身する。という意味である。
プロ野球の例を挙げるとすれば、
第2回WBCの決勝戦:韓国戦でイチローが放った決勝センター前ヒット。
2013年日本シリーズの第7戦でマウンドに上がり、胴上げ投手になった田中将大。
昨年の日本シリーズの第6戦で放った、内川の同点ホームラン。
鈴木誠也選手の三連続サヨナラ本塁打
などである。
これらの偉業は「常人」ではあり得ない奇跡。
自分という人間に「プラスαという特殊能力」を加えないと、絶対に達成することが出来なかった「奇跡」であろう。
これは正しく、アドレナリンという「スーパーサイヤ人」に変身しなければ達成できなかった「偉業」である。
イチローや田中将大でさえ… なんだぞ?!
こんなスーパースターでさえ、誰もが神頼みしなければならないシーンに直面すれば「裸の自分では勝負できない」ときが必ず訪れる。
じゃあ、この時のイチローや田中将大や内川選手や鈴木選手は
「いつ」「どこで」「どのタイミング」で
スーパーサイヤ人に変身していたか?
実は問題は「そこ」にある。
バッターボックスに入ってから…
マウンドに上がってから…
では、100%遅いのである。
イチロー選手や、内川選手、鈴木誠也選手に至っては、多分、前の回や前の前の回辺りから「その匂い」は感じ取っていたはずである。
そして「ネクストに入る前」から、おおよそのシーンと、その「来たるべき場面」をシュミレートし、後は大歓声に後押しされながら自分がゆっ…くりと、バッターボックスに入る場面や、ヒットやホームランを打ってダイヤモンドを回るときの表情や仕草、バッティンググローブを外して、コーチャーに渡すときの立ち振る舞いなど…
ありとあらゆる「成功した未来の自分」を想定し、バッターボックスに入る頃には「全ての想定」と「全ての準備」を終えていたに違いない。
長々と書いたが、陸も海琉も何が言いたいのか分かるか?
わしが言いたいのは「結果論」なんかじゃない。
要は「準備が遅い」のである。
「わ!マジで回ってきた」じゃない。
「オレまで回ってくればイイなぁ~」じゃない。
「回ってきたらどうしよ」なんかもってのほか!
奇跡を起こすヤツ!
奇跡を起こせるヤツ!
サイヤ人からスーパーサイヤ人にすぐ変われるヤツは!
「頼む!わしまで回せ!」
「大丈夫。絶対ワシまで回る!」
「ヤバい!ぶちエエ場面でわしに回ってくる!」
と、「自分に出番があることを確信」して、その準備に入っている。
だから、じっくり「配球」が見れる。
だから、じっくり「初球の入り方」を観察できる。
だから、ゆっくり「勝負球がなんなのか?」を研究することができる。
準備が早ければ早いほど、その研究が多く見れる。
5人前から準備できれば、5回、その配球が見れる。
4人前なら4回分。3人前なら3回分。
けど、これが「ネクストに入ってから」だと、一回分の配球しか見れない。
今のシャークスの子たちが準備しているのは、ほとんどがネクストに入ってから。
これでいつ、テンションを上げるのか?
これでいつ、アドレナリンを爆発させるのか?
これでいつ…
スーパーサイヤ人に変身できるのか?
「打てるべくして打つ」人間は、打てるべくして打つ「準備」が整っている。
「結果がついてこない」人間は、技術や運の問題じゃない。
「準備」と「気持ちの持って行き方」が遅いだけ。
ただそれだけ。
仕事もそう。勉強もそう。野球もそう。
効果と成果が上がらないのは「準備が遅い」のと「準備不足」が9割。
人生、出たとこ勝負で結果がついてくるほど甘いもんじゃない。
出たとこ勝負って、結局はただの「一か八かのギャンブル」でしかない。
陸も海琉も、毅士も廉平も、樹も悠成も!!
技術は十分すぎるほど整っている。
なのになぜお前らは「ここ!」という場面で打てんのか?
それは「気持ちの準備」が遅いから。
長くなったので、ここらで終わりにするが、その過程はどうあれ、結局「負けは負け」である。
もし、あの時こうだったら…とか、あの時、こうすれば…と、いつまでも終わったことをグジグジ言っても勝敗は変わらない。
変えれるのは「自分の弱さ」と「性根」だけ。
何度も何度も言う。
いま変われば「神宮予選」には間に合う。
いま変わらなければ、神宮予選どころか「高校野球」でも悔いと後悔しか残らない。
オマエらがこの「広島瀬戸内」で、自分たちが歩んできた「足跡」を残したいなら。
「ウチ」にきて「強いオトコ」になりたいなら。
目の前の野球を信じ、目の前の「監督コーチ」を信じ。
そして何より、かけがえのない「同期」と「大切な仲間たち」を信じ。
あと一歩!
次の一歩!
そして「目の前の一歩」を大切に歩んで欲しい!
お前らの目の前には23期生の足跡がたくさんある。
お前らはそのたくさんの足跡を踏みしめながら…
目標にしながら…
自分たちの足跡をしっかり刻んで歩まなくてはならない。
でないとお前らの足跡がない25期生は、何を頼りに、何を目標に、何を心に刻みながら歩んでゆけばいいのだろう。
ええか?!もう一回言うど!?
今からワシは事務局を越えて、一人の人間として声を大にして言う!!
秀樹!!
お前はそんなヤツじゃったか?!
それでエエんか?! それで中学野球終わってエエんか?!
お前が副キャプに選ばれた理由を思い出せ!お前の持ち味を思い出せ!
こがなとこで、こがな中途半端なお前で終わってエエんか?!
唯人!!
いつまで優等生でおるんや?!
いつまで大人しい子でおるんや?!
お前のチカラはこんなもんか?! ここで終わって「瀬戸内に入って良かった」って言えるんか?!
「硬式野球やって良かった」って言えるんか?! 投げれんのやったら打てや!打てんのやったら振れや!
お前のニコニコ笑った顔は、誰が見ても心が洗われる!
でも、お前が目を三角にして!怒って!泣いて!クシャクシャになって感情むき出しになって泥臭いお前も出してみぃ!
こがなとこで終わるようなお前じゃなかろうが!!
亮介!!
ええど!! 変わりつつあるんど!! よう振っとんど!! 変わろうと一生懸命頑張っとんど!!
ここを守れぃ! 今を続けい! 今を惜しむな! やり続けい!
今、一番、変わろうと努力しようるんはお前ど!
カラダが小そうてもええ! 走るんが遅うてもええ! チカラがのうてもええ! メシ食うんが一番遅うても!
亮介は今、自分に甘えず、焦らず、自分が出来ることを、何より自分が一番信じちゃれい!
人に信じて貰えんでも、周りに信じて貰えんでも、お前だけは角増亮介ゆう自分を最後まで信じちゃれい!
そうすりゃ絶対結果はついてくる! そうすりゃきっとお前は変わる!
野球の神様は! 野球が大好きで、真面目に頑張る子に最後はきっと微笑む!
まだまだで!こがなとこで終わるようなお前じゃないんど!
エエか?お前ら三人!よう覚えとけよ!
いま変われば「神宮予選」には間に合う。
いま変わらなければ、神宮予選どころか「高校野球」でも悔いと後悔しか残らない。
オマエらがこの「広島瀬戸内」で、自分たちが歩んできた「足跡」を残したいなら。
「ウチのメシ」食うて「強いオトコ」になりたいんなら。
目の前の野球を信じ、目の前の「監督コーチ」を信じ。
そして何より、かけがえのない「同期」と「大切な仲間たち」を信じ。
あと一歩!
次の一歩!
そして「目の前の一歩」を大切に歩んで欲しい!
やるで! やるしかないんで!
わしゃお前ら信じとるど!